高山 右近 作家 加賀 乙彦
「あんな立派な人は、小説にできないよ」 。 故遠藤周作さんとキリシタン大名の高
山右近について話した時、2人のカトリック作家は一致した。それから10数年。文語
体の創作能の台本を書き、20日には初の歴史小説「高山右近」を出版する。なぜです
か?
「バブル経済がはじけて日本社会がおかしくなってきたとき、欲望と無縁な人間が
今の日本にはほしい、そんな人物を描きたいと思った。その時、栄誉や権力に縛られ
ずに自分の魂を大切に、死をかけて個人の尊厳を守った右近がいたと気がついた」
右近は、フロイスら宣教師たちと友情をはぐくんだ。合戦だけでなく、能や茶道に
も優れていた。秀吉に領地を没収されても信仰を捨てず、徳川幕府に追放されてマニ
ラで病死した。惜しんだ宣教師たちが伝記を残した。
「ヨーロッパの国や宗教の激しい対立が布教にも影響を与えていた。日本と外国の
複雑な力関係は現代とも似ているが、日本文化を大事にしながらも右近は国家や文化
や人種に違いにとらわれなかった。新の国際人が、400年前も昔に存在したので
す。
前作の大河小説「永遠の都」が第二回井原西鶴賞を受賞したばかり。骨太な長編小
説で知られる。精神医学者として成果を上げていたが、30代半ばで小説執筆を志し
た。同じ年頃に領地を捨てた右近の心情が、よくわかる気がする。
創作能は、野田暉行さんの現代音楽に合わせ、森英恵さんがデザインした白い衣装
で梅若猶彦さんが右近を舞う。
「中高年の男性のうつ病や自殺が増えている。会社や仕事中心ではなく、自分の精
神を大切にする生き方を、ぜひ知って欲しいのです」
(朝日新聞より)
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